星空を撮影するために小笠原諸島の父島に旅行に行ってきました。
私が住んでいる東京郊外とは比べ物にならないくらい空が暗い父島で星空を撮影するというのは初めての経験でした。
ここでは天体撮影初心者の私が星空を撮影するために用意した機材を中心に、父島ならではの注意すべきことを紹介します。
なぜ父島か
今回の旅の最大の目的は、天の川の撮影をすることです。私が住んでいる東京都清瀬市は都心から30kmほど離れていますが、空はだいぶ明るく、シャッター速度を5秒にするともう空が白く映ってしまいます。
どうせ星空を撮るなら天の川を撮りたい。天の川をきれいに撮るためには、やはり30秒は開けたい。そのためには空気が澄んでいて空が暗いところがよい。でも山の上だと熊が怖い。なら父島に行こう。ということで今回の父島行きを決めたのでした。
いつ行くか?
天の川が一番きれいに撮れる時期は夏です。でもこの時期は船代も宿代も高騰します。ぎりぎり夏の天の川が見えて、旅費もそこそそこ安く抑えられ、新月付近に滞在できる。さらに父島への唯一の移動手段であるおがさわら丸(船)はほぼ一週間に一度しか便がありません。これらの条件を満たすためには下調べがとても重要。まず国立天文台天文情報センター暦計算室の情報をもとに、おがさわら丸の航海日と月の入り、月の出、月齢をマッピングし、最適な旅行日を決めます。
星座早見盤も使いながら検討した結果、2016年10月26日~31日(父島滞在は10月27日~30日)だとちょうどいい感じで天の川が撮影できそうです。チャンスは3夜。良い天気に恵まれるよう天に祈りましょう。
準備するもの
星を撮るのに必要なものを集めます。
カメラ・レンズ
これが無いと始まりません。今回持っていたのはこれです。
- Nikon D7000
- Nikon AF-S DX NIKKOR 10-24mm f/3.5-4.5G ED
周辺の景色を入れた天の川写真を撮るなら広角レンズが必須です。現地ではほぼすべての写真を10mmで撮影しました。
三脚
せっかくなのでちょっと良いのを新調しました。Manfrotto社のBefreeというモデルです。アルミ製とカーボン製がありますが、アルミ製を購入。
この三脚は自由雲台なので撮りたい方向にレンズを合わせるのがとても楽な反面、水平を合わせるのが苦手と言われています。でもD7000なら内蔵の水準器機能があるので問題ありません。
ところが、新調したことで致命的なミスをしてしまいました。カメラを三脚に取り付けるためのクイックシューを家に忘れてしまったという……。いつも使っていた三脚はカメラを直接取り付けるタイプなのでうっかり……。
父島にはこんな部品を売っている店は多分ありません。もう帰りたくなる気持ちを抑え、雑貨屋でビニールひもを調達。三脚にぐるぐる巻きにすることで何とか応急処置しました。でもさすがに固定力は弱く、向きの微調整はほぼ不可能でした。クイックシュー。これだけは絶対に忘れないように。
星座早見盤
スマホアプリで代替できますというサイトがけっこう見つかるのですが、私は代替できないと思います。実際に暗闇で使うと画面が明るすぎてせっかく暗闇に慣れた目が台無しです。また、父島旅行は何かと荷物が多いので、軽くてかさばらない紙製一択ではないでしょうか。私が持参したのは小学校の時に買ってもらったビクセンの望遠鏡の付属品。
なお星座早見盤と実際の星空を見比べる際はその場所の緯度に注意が必要です。たとえば北極星の仰角はその場所の緯度に等しくなるのですが、東京都心は北緯35度くらい、父島は北緯27度くらいですから、父島では北極星が8度ほど低く見えることになります。8度というと腕を伸ばしてげんこつ一個分くらいの長さなので、目に見えて違いが出ます。そのため星座が見えてくる時刻は星座早見盤で示されるよりも方角によって早かったり遅かったりするので、特定の星座を狙い撃ちする場合は気を付けておきましょう。
タイマーレリーズ
シャッター速度を少しずつ変えながらベストな露出を探るためにはタイマー付きのレリーズが必須です。ニコン純正品は少し高いので、不安もありつつロワジャパンの同等製品を用意。撮影間隔、撮影時間、コマ間時間、撮影枚数をそれぞれ設定できます。D7000に接続できるのはTC-2006というモデルとなります。
良いところ
1秒毎に電子音を鳴らせるのが意外と便利。無音だとシャッターを押し忘れたんじゃないかと不安になります。だからといってレリーズのディスプレイに光を当てて確認したら余計な光が写りこんでしまったみたいなことは避けたいですし。
気になるところ
電源スイッチが無く、使わないときは電池を抜いておかないといけないのが少し不便です。でもそれほど頻繁に使うものではないので、普段は電源を抜いて保管しておくくらいがちょうどよいのかもしれません。
ヘッドライト
暗闇で行動するのに明かりは必須。現地では両手で作業する必要があるので懐中電灯ではなくヘッドランプが適しています。探してみると様々なモデルがあり、1000ルーメン超!みたいに明るさを売りにしている製品が特に目につきます。でも私にとっては160ルーメンで十分でした。私が選んだのはブラックダイヤモンド社のストームというモデルです。
※ 2016年1月現在、ストームの新モデルが出ています。明るさ250ルーメンです。
このモデルを選定した一番の理由は、使用する時間に対して光が届く距離が比較的なだらかに減衰していくことです。このあたりはカタログからは読み取れないのですが、主要なモデルであればOutdoor Gearlabというサイトの情報が役に立ちます。例えばブラックダイヤモンドストームとPetzl社のTikka XPというモデルの照射距離の比較をしてみました(実際の結果)
これを見てわかる通り、ストーム(青い線)はなだらかに減衰しているのに対し、Tikka XP(緑の線)はある時点で急激に暗くなることが分かります。
※ Petzl社のモデルがダメだという意図はまったくありませんので念のため。
実際に夜道でも安心して歩けました。ストームはおすすめです。
コンパス
天の川を撮影しようとするような人なら北極星を難なく見つけられるでしょうが、正確に南東がどっちかを調べたいみたいな場合に役立ちました。私が使っているVixenのコンパスは、天体観測用に作られていて、目に優しい赤いLEDで針を照らす機能がついています。これは便利。
結露防止ヒーター
父島は秋でも平均気温25度くらいだし結露することもないだろうと思っていましたが、結果的に間違いでした。
- 1夜目: 比較的空気の状態は良かった。結露無し。
- 2夜目: 夕方に降ったスコールのため湿度100%。カメラボディ全体に完全に結露。
- 3夜目: 昼に振った雨のせいか高湿度。レンズが結露。
そう、雨の影響が強いのです。結露対策はしておいた方が良いでしょう。私はヒーターのよこたさんで「タイプ6MSP」というモデルを購入しました。1本4,100円(2017年1月11日現在)です。
モバイルバッテリーからUSBで給電できるのが便利ですし、クロロプレーンの保温材により保温効果もあります。また保温材の長さが40cm(ヒーター部は27cm)あり、直径100mmのレンズまで対応可能です。今回持って行ったレンズNikon AF-S DX NIKKOR 10-24mmでも長さは問題ありませんでした。
ロケーション
父島には美しい星空日本一の場所があります。「日本一」の根拠は、環境省が1988年(昭和63年)から2012年(平成24年)まで実施していた「全国星空継続観察」でもっとも夜空が暗かった場所に選ばれたことです。父島では平成23年度にコペペ海岸、平成22年度に小港海岸が選ばれています。
そこでメインの撮影場所を小港海岸としました。
実際に行ってみて気づいたこと:
- 湾は北西側が開けていてその周辺は低い山(というか丘)になっています。とはいっても撮影に支障をきたすほど視界を遮るわけではなかったので、よっぽど低空の星座を移すのでない限り問題ないレベルです。逆に丘になっているおかげで、街の明かりが遮断されていて天体撮影には好都合かもしれません。
- 小港岬(下の写真の右の丘の上あたり)にで割と強いオレンジの光が光っていることがありました。灯台かなとも思いますが、国土地理院の2万5千分の1地図には灯台記号は書いてない。 1夜目は気づかなかったので常時点灯しているわけではないかもしれません。
- 19時から20時くらいの時間帯は星空観測ツアーの方々が海岸を訪れます。多少は光を照らされてしまうので、その時間はツアーガイドの説明を横耳に聞きながら一休みしておくのが良いでしょう。
- さらに湾の先の方では、夜のクルーズ船が停泊していることがありました。星を撮るには不適切な明かりを発していますので、そうなったらおとなしく船が去るのを待ちましょう。
宿について
どうせいくならコペペ海岸や小港海岸に近い宿に泊まった方が夜遅くまで撮影ができて便利です。小港海岸付近には食事が出る宿「くつろぎの宿 てつ家」と自炊タイプの宿「シャンティーバンガロー」の2件があります。私は自炊などとてもできないので(^^;、てつ家さんの方にしました。こちらの方が海岸に近く、歩いて7分ほどです。部屋はきれいで食事もおいしかったのでおすすめです。
実際の撮影
さて準備ができたので撮影です。撮影テクニックは他のサイトに譲るとして、3夜撮影した結果を紹介します(クリックするとオリジナルサイズになります)。
最後に
肉眼でもはっきりと分かる天の川を見られたのは感動的でした。写真でもカシオペア座付近の天の川が写るのはさすがです。小笠原諸島はなかなか簡単に行ける場所ではありませんが、一度行くとすぐにまた行きたくなる場所です。皆さんも訪れてみてほしいです。
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