5年毎にもらえる会社の長期休暇制度を使って父島に行くことにした。旅の目的は天体撮影(関連記事)、位置登録ゲームの地域取得(伊豆諸島、小笠原諸島)、そして父島観光だ。この記事では、往復のおがさわら丸内の様子、旅行中に出会った生き物、現地で見かけた興味深いものなど、私が他のサイトではあまり見つけられなかった情報を中心に紹介する。
10月26日(水)
11時に東京港竹芝客船ターミナルをおがさわら丸出港した。
船に乗って分かった、乗船前に準備しておいた方が良いもの
- ペットボトルのお茶などの水分
船内はけっこう暑く、喉が渇く。船内でも買えるがちょっと割高なので事前に買っておくことをお勧めする。 - Suicaへのチャージ
船内の売店や食堂で使える。父島内では使えない。船内ではアイスとか飲み物とかお土産とか買いたくなるので、最低1万円くらいは入れておくと気兼ねなく買い物ができると思う。船内でも父島現地でもチャージできないので、これも乗船前に準備しておく。
持って行ったけど使わなかったもの
- PCに入れておいたDVD
初めての小笠原旅行なら多分要らない。24時間も船に乗るなら暇だろうと思っていたが、食堂に行ったりデッキの探検をしたり写真を撮ったりしていると、意外と時間をつぶせる。私は結局DVDを見ることはなかった。船酔いしたら怖いというのもあったけど。 - 船内で使うつもりだった石鹸・シャンプー
事前の下調べでは、おがさわら丸のシャワールームには石鹸やシャンプーの類は備え付けられていないようだった。でも私が乗った時にはちゃんと備え付けられていたので、たぶん持参しなくてもよい。
船内の様子
初めてのおがさわら丸は特2等寝台を確保。座席番号(ベッド番号)は行きは6番、帰りは5番だった。特2等寝台は1部屋に10個のベッドがあり二段ベッドとなっている。そして二段ベッドの上側または下側同士が向かい合わせになっていて、二人組が向かい合わせのベッドを占有できるような作りになっている。例えば1番と2番は上段同士向かい合わせ、3番と4番は下段同士で向かい合わせとなっていて、1番と2番のベッドに入る通路からは3番のベッドは壁になっていて見えないという構造。ただし5番と6番は向かい側が壁なので、カーテンを閉めると個室のようになる。予約順なのか出港時のチェックイン順なのか、あるいは一人旅の人優先で割り当ててくれるのかは不明。ちなみに私は予約可能時刻(2か月前の午前9時)直後に予約している。
ベッドにはテレビが備え付けられており、電波が届くうちは地上波が見られる。しかしすぐに見られなくなり、小笠原の観光案内と現在地を案内する船内放送のみになる。
コンセントはテレビの後ろに1個、足元のランプのところに1個で合計2個あるので、スマホを充電しながらPCが使える(結局PCは使わなかったけど)。
東京湾から外海に出ると、ずっと震度1くらいのゆっくりとした揺れが続いている感じだった。乗船直前に飲んだ酔い止め(ニスキャップ)のせいか、船酔いはしなかった。帰りは……。
16:50 三宅島のあたりで日の入り。この先の八丈島を過ぎるともう360度どこを向いても光が見えない。肉眼で天の川が余裕で見える。
10月27日(木)
夜が明け、デッキに出てみると、空気は暖かかった。海は鮮やかな青。
海鳥が船を追走している。船が起こす波に驚いて水面に上がってくる魚を、鳥は待ち構えている。
11時に父島二見港に到着。船を下りると宿の方々が出迎えに来てくれている。スーツケースを預け、昼食をとる。
少しの時間の余裕を使って、かなりの段数の階段を登って大神山神社に行く。展望台からは二見港とおがさわら丸が見えた。おがさわら丸はこのまま港に停泊し、同じ船で東京に帰ることになる。
バスで小港海岸方面に移動し、宿に到着。とても清潔できれいな部屋だ。お風呂は室外か、と思って反対側を見るとトイレも外に!? これは初めての体験だ。外にあるからと言って汚れているかというとまったくそんなことはなく、掃除が行き届いていて安心して使える。
夜の星空撮影に備え、小港海岸にロケハンに行く。途中にある山肌に野ヤギがいた。
そして夜は星空撮影(関連記事)。
10月28日(金)
ツアーには申し込まず、一人気ままにレンタカーで島内散策する。父島内の海岸はどこも南国風の白浜かと思いきや、岩だらけのものあり、砂の色が灰色なものあり、きれいな白砂のもありで、一通り巡ってみるのも良いと思う。
扇浦
夏は海水浴客でにぎわうらしい。この日は浜から離れたところ教習中のカヌーが5艘浮かんでいた。浜には人の姿はなく、まったりした雰囲気。このあたりの砂浜は灰色の砂で覆われている。
洲崎
空港建設が予定されていた場所。このあたりは大きな石がごろごろしている。ちょっと海水浴には向かない。
国土地理院 父島VLBI観測局
来てみたかった場所の一つ。
国土地理院で行っている測地VLBIは、そのデータを地球上の位置や距離および地殻変動や地球回転速度などの地球に関する情報を得るために行われます。
出展: 国土地理院VLBI FAQ
ということで以前はパラボラアンテナが設置され電波観測を行っていたが、父島観測局は2015年3月に国内観測運用を停止したそうで(参考記事)、いまやお皿(パラボラ部分)は取り払われて台座の部分のみになっていた。ちょっと寂しい風情だ。
コペペ海岸
父島内にある、星が日本一きれいに見える場所のうちの一つ(もう一つは小港海岸)。この海岸の砂は白くてさらさらしている。白い砂はサンゴや貝がくだけてできた砂の証。この場所も天体撮影のロケーションとしては良いのだが、徒歩圏内に宿が無く、車やバイクがないと来られない場所なので、ちょっと天体撮影するには敷居が高いと思う。
JAXA小笠原追跡所
ここも一度見てみたかった。
種子島宇宙センターから打ち上げられたロケットの飛行経路や飛行状況の確認、および飛行安全の確保(異常飛行の監視など)を目的として、施設内に飛行中のロケットを電波で追尾する電波設備(精測レーダ設備、ロケットテレメータ受信設備など)が整備されています。
出展: JAXA 小笠原追跡所について
この日は特にロケット打ち上げの予定もなく、パラボラアンテナは静かに真上を向いていた。見学は受け付けていないようだ。
国立天文台VERA小笠原観測局
来てみたかった場所その3。
VERAは、銀河系の3次元立体地図を作るプロジェクトです。VLBIという電波干渉計の手法を用いて、銀河系内の電波天体の距離と運動をこれまでにない高い精度で計測し、銀河系の真の姿を明らかにします。
出展: VERAプロジェクト(国立天文台水沢)
敷地には特にゲートもなく自由に出入りできる。ネット上では敷地内にある事務所にも自由に入れる(入れた)という情報もあったが、私が行った時にはドアが閉まっており、関係者以外は入れないようになっていた。中では職員の方がお仕事をされているようだった。普通に考えれば自由に入れないのは当然。
この規則的な造形が何とも言えない。
アンテナの周りをぐるぐる回ってあらゆる角度から激写していると、突然アンテナが動き出した。サービスで動かしてくれたのかな? 感激して、あわてて動画を撮る。機械のうなる音がしびれる。
このアンテナは夜になるとライトアップされる。レンタカーを借りたのは夜にこの場所に行くことも目的である。夜22時ごろに真っ暗な山道を走っていると、オレンジ色に光るアンテナが突然現れる。暗闇に浮かぶオレンジ色の巨大なアンテナは圧巻で、少し恐怖を感じるくらい。
夜は昼と違って、アンテナが元気に動いている。30秒くらい静止したかと思うとおもむろに動き出し、別の方角を向いてまた30秒くらい停止する。これをずっと繰り返していた。事務所は真っ暗だったので自動運転しているのかな。
またもや興奮して動画を撮影するも、興奮しすぎて数分間撮ったつもりの動画が実は撮れていなかったことに翌日気づいた。これはショック。一応短いバージョンの動画も撮っておいたのでこれで満足することにした。静寂な暗闇に響き渡る機械音、これもまたいい。
ウエザーステーション/三日月山
ここはウェザーステーションという名の通り、気象観測のための施設がいくつも設置されている。
グリーンフラッシュが見られることを期待したが、この日は雲に遮られ日の入りの瞬間は見られず。たぶん普通の日の入りだった。
10月29日(土)
今日は歩いてジョンビーチを目指す。レンタカーを返し、大村内でお弁当と水を購入。そしてバスで小港海岸まで移動。10時にジョンビーチへの長い旅に出発した。
ジョンビーチに行こうとするなら、絶対に最低水2リットルは持参必須。どのサイトを見てもこのことは書いてある。そうはいってもそれって真夏だけだろうとたかをくくって1.5リットル分しかもっていかなかったら、往路の半分くらいですでに750mlは飲んでしまった。気温は30度越え、日差しは南国、山道の勾配はとてもきつく高湿度、そのため汗を大量にかく。ここは素直に助言に従った方がよい。
以下に小港海岸からジョンビーチまで片道2時間の記録を記す。
1. 10:01 入口
小港海岸からジョンビーチに向かう入口部分。ここで靴底や服についているかもしれない外来の種を、マットや箱の中にあるコロコロ・お酢スプレーで落とす。
2. 10:04 ヤギ除けゲート前
少し歩くとヤギ除けのゲートがある。この先に野ヤギが入り込んで植物を荒らすのを防ぐため。
3. 10:07 グリーンアノール発見
葉っぱの上でじっとしているグリーンアノールを発見。父島にペットとして持ち込まれたものが帰化したとのこと(参考:wikipedia)。かわいいのだが、父島にとっては島の昆虫を荒らす迷惑ものみたい。
4. 10:23 中山峠から見る小港海岸
一気に急な山道を登ると中山峠に到着。標高100mくらい。日陰が無くジリジリと暑いが、見晴らしがよく気分が良い。ジョンビーチまできつい山道だと聞いていたが、このペースなら1時間で着きそうだし楽勝そうだ。と、このときはまだ楽観していた。
しばらく見晴らしの良い尾根を歩く。
5. 10:31 次はブタ海岸
次はブタ海岸。あと0.5kmか。ジョンビーチも近そうだなと確信(まだ楽観している)。
途中、山肌に穴があるのを発見。防空壕跡か?
6. 10:36 ブタ海岸を望む
あれがブタ海岸か。
7. 10:44 ブタ海岸
一気に急勾配を下ってブタ海岸に到着。海岸付近でブタが飼われていたことからブタ海岸と名付けられたということだが、ブタはいなかった。このあたりは砂が灰色。山から流れてきた砂が堆積したものなのだろう。
休憩無しで先に進む。
8. 10:49 絶望…
再び山道に入って5分ほど歩くと標識あり。え、ジョンビーチはまだ2.9kmも先? これまでの楽勝ムードが冷めてしまった。引き返したくなるが、気を取り直して先に進む。
9. 10:59 ひたすら登る
このあたりの勾配が一番きつい。急な坂道だけではなく階段が増えてくる。10mくらい進んでは日陰で座り込んで水を飲む、ということを繰り返す。飲み水の準備不足を後悔したのがこのあたり。1枚目の写真が霞んでいるのは、森の湿気と汗の蒸気でレンズが曇ったもの。
10. 11:14 今回の行程での最高点(標高120m)
高山頂上を通らないコースで一番標高が高い地点に来た。眼下の海がジョンビーチだとこのときは思っていたが、実はまだまだ先。
この地点で高山頂上に向かうコースとまっすぐジョンビーチに向かうコースに分岐する。合流点に歩道断面図の標識があったのでここで引用する。ここは「高山分岐点(小港側)」で、この先は一気に下った後、しばらくなだらかな道が続くことが分かる。
11. 11:24 なだらかな道
アップダウンが減ってきて歩きが加速する。まったくだれともすれ違わない。
12. 11:28 こういう景色が心を休める
たまに出てくる橋みたいな構造物や、カニ・ヤドカリ・鮮やかな色のキノコなどに出会うと、心が休まる。沢があるようには見えないが、カニやヤドカリがいた。
13. 11:35 あと1km
高山頂上から下ってきた道との合流点。あと少しだ。
14. 11:41 ひたすら歩く
軽快に歩く。
15. 11:46 ネコ捕獲用ケージがあった
山に迷い込んだネコの捕獲用ケージ発見。山中にいる野猫を捕獲し、本土で里親を探す活動がされているとのこと。
海洋島である小笠原諸島にはもともと肉食哺乳類はいません。外敵のいない環境で進化した動物たちは警戒心が薄く、地上で長く行動するなどの特徴があります。こういった動物たちは人間によってもちこまれたネコに対する防衛手段をもっていませんでした。
(参考:小笠原ネコプロジェクト)
16. 11:51 きつい下り坂になってきた
この辺りから急激な下りになる。山歩きは登りより下りが怖い。しかも地面は昨夜の雨に濡れた枯れ葉が堆積している。足を滑らせないよう、カニ歩きで慎重に降りる。復路はこれを登るわけか……。
17. 11:54 崖だ
開けた場所に出てきた。
18. 12:01 到着!
着いたー。きっかり2時間かかった。白砂がまぶしい。海は透明。とても気持ち良い。
ここでお昼ご飯を食べ、再び長い旅へ。写真を撮る気力はなく、ひたすら山道を歩く。小港海岸に戻ってきたのは15:30頃。途中で水を飲み干してしまっている。宿まで歩いて戻り、水のシャワーを浴びる。この辺りには自販機などというものは無く、部屋にあった有料のペットボトル水を一気に飲み、少し生き返った。
何もする気が起きず夕食開始の18時までベッドに横になる。なんだか熱っぽかった。
夕食後、あまり体を動かす気にはならなかったが夜の天体撮影に向かう。今晩も湿度が高いが昨日ほどではない。21時から23時までごろまで50枚撮影し帰宿。
10月30日(日)
9:30にチェックアウト。スーツケースは宿の方が出港直前の14:30に二見港に届けてくれるということなので、リュックだけ背負って宿の方の送迎で街に移動。お土産を購入しつつブラブラする。
15:30出港。
港から離れてもずっと見送りの船がついてくる。たまに「いってらっしゃい」の言葉を海に飛び込むことで示す人々もいる。父島から離れることは「さようなら」ではない。
そう言われてしまうと、「ただいま」と言って父島にいつか帰らなければならないな。
帰りは海が荒れていて、震度4くらいの振れ幅が20時間以上続く。酔い止めも効かない。横になると楽になるのだが、起き上がるとたちまち気持ち悪くなるので、ひたすら寝る。
10月31日(月)
東京湾に入るとようやく波が収まる。
15:30 竹芝ターミナルに到着。
現実に引き戻された感じで、自宅まで電車で移動。
最後に
当初の目的はすべて達成。次に行けるのはまた5年後かな。
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